子どもたちのメンタルヘルスについて(その1) | 豊中市 千里中央駅直結の心療内科「杉浦こころのクリニック」

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子どもたちのメンタルヘルスについて

これまでみられなかったタイプの犯罪、学級崩壊、いじめの横行などは今も報道をにぎわせています。減少傾向にあるといってもまだ少なくない不登校、ひきこもりの相談でクリニックを訪れる人は多いです。子どものケースでは発達の問題を無視することができません。発達の障害が重いものが必ずしも適応の障害が大きいとはいえないところがあります。たとえばアスペルガ一障害や学習障害は、軽度であれば周囲も自分も障害に気がつかず、そのため適応上の問題を引き起こすことになるからです。AD/HDの有病率は児童の3~6%であるが、この障害をもつと親や教師からの叱責が多くなり、ネガティブな打撃を繰り返し受けることになり、パーソナリティの発達に大きな影響を与えます。

また競争社会、結果主義、養育の早期切り上げなど、前述の社会的・文化的変化は子どもにさまざまな影響を与え、内心の自己不信を高め、自尊心が過敏で傷つきやすい傾向を助長し、適応上の問題を作ることになります。現代の子どもたち(青年を含む)は「思い描いている自分」かその対極にある「取り柄のない自分」と自分に分極し、本物の自分である「等身大の自分」が消失しています。「思い描いている自分」が機能しているうちは何とか過ごすことができても、現実の思い通りにならない事態に直面すると、一挙に 「取り柄のない自分」に転落します。そのときの反応はキレると表現される怒り、ひきこもり、抑うつ状態であり、「自己愛の三徴」と呼ばれています。

Ⅰ.不登校、ひきこもり、対人恐怖症など

(1)不登校

不登校は1疾患概念にくくることのできる疾患あるいは症候群ではなく、通常の心性の誇張された表現から、さまざまな精神疾患の症状までの広いスペクトラムをもつ、一般的な症状ないし病理現象と考えられています。不登校は、学校を欠席していることに強い葛藤をもちながらも家庭にとどまる状態を指しており、非行に伴う怠学、家庭の貧窮による登校不能、ネグレクトなどの児童虐待による欠席などは含みません。不登校は、かつて分離不安障害とだけ診断される傾向がありましたが、不安障害や適応障害をはじめとする多彩な精神疾患が不登校の発現に関与しています。

不登校をもたらす第一の不安・恐怖は「分離不安」です。分離不安の強い子どもは、登校しても母親と一緒でなくては学校にとどまれなかったり、親や家庭が気にかかって居ても立ってもいられなくなったりします。第二の不安・恐怖は「社会恐怖」で、これは人前で発言し活動することを恥ずかしがる過度な内気さのことです。第三の不安・恐怖は、学校での活動や人間関係に失敗し恥をかくことを恐れる「予期不安」です。この予期不安に伴う緊張は、しばしば登校のため家を出る直前にピークに達し、頭痛や腹痛などの身体症状を惹起したり、何度もトイレに通わなければならなくしたりします。

これらの不安・恐怖が耐え難いものになれば、おのおの「分離不安障害」「社会不安障害(社会恐怖)」「全般性不安障害」(いずれもDSM-Ⅳ-TR)と診断されることになり、さらに不安・恐怖が高度になれば子どもの登校しようとする意欲をくじき、不登校へと追いつめていきます。

(2)ひきこもり

ひきこもりは社会的な回避状態を意味しており、与えられている社会的役割からの回避はあるものの外出は可能という水準から、社会生活のほぼ完壁な回避による家庭へのひきこもりまで、病理現象としての重篤度の幅は大きいです。ひきこもりという概念は子どもの不登校にも通じるものでありますが、通常は主に義務教育終了後の青年に生じたものを指しています。ひきこもりも不登校と同じように、その多くが青年に生じる多様な精神疾患の結果であるといえるでしょう。青年のひきこもりにも各種の不安障害やパーソナリティ障害をはじめ多彩な精神疾患が関与しています。ひきこもりは基本的に「非精神病性ひきこもり」と同義に用いられていますが、精神科医が経過をみたうえで診断するまでは、プライマリ医療では統合失調症や気分障害を中心とする精神病性疾患の可能性を常に念頭に置くべきです。

(3)対人恐怖症

対人恐怖症は社会不安障害の日本文化に特異的な病像としてDSM-Ⅳ-TRに記載されているように、対人的・対社会的な強い緊張感と不安を主徴候とする、わが国の青年に特有な社会不安障害関連の疾患です。対人恐怖症の症状は重症度別の階層構造で理解すべきです。第1群および第2群症状は社会不安障害の範囲内にありますが、第3群症状は社会不安障害の最重症層を構成するだけでなく、わが国で“思春期妄想症”と呼ばれてきた自己視線恐怖症、自己臭恐怖症(この2疾患はDSM-Ⅳ-TRでは妄想性障害)、醜形恐怖(DSM-Ⅳ-TRでは身体醜形障害)といった重い病態を含んでいます。

(4)治療・援助

これらの諸問題に対する治療・援助は1つの治療技法で足りるというものではなく、いくつかの治療技法や利用できる諸機関の連携を通じて子どもに合わせたテーラーメイドの援助システムを構築することが求められます。

治療は諸現象の背景疾患を特定し診断するという作業と並行して、徐々に奥行きと緻密さを増すように組み立てられていくべきです。その組み立てに利用される各治療技法のうち、薬物療法は個々の背景疾患に対して行われます。認知行動療法は症状形成をめぐる個人的な認知構造に対して行われ、個人精神療法は個々の自我機能や対人関係の質に対して働きかけ、親ガイダンスや家族療法は個々の親機能や家族機能がターゲットであり、学校や相談機関や地域のNPOなどとの連携は地域システムの機能に向けて働きかけるものです。これらを包括した治療・援助は背景疾患を改善させるだけでなく、その目標は、社会的回避状態から社会的な活動の場を獲得するところまで、一貫して子どもや青年を支えることにあります。

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