発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているために、幼児のうちから症状が現れ、通常の育児ではうまくいかないことがあります。成長するにつれ、自分自身のもつ不得手な部分に気づき、生きにくさを感じることがあるかもしれません。
ですが、発達障害は「先天的なハンディキャップ」ではなく、「一生発達しない」のでもありません。発達の仕方が通常の子どもと異なっていますが、支援のあり方によって、それがハンディキャップとなるのかどうかが決まるといえます。
人は、家庭環境や教育環境など、様々な外的要因に影響を受けながら一生を通して発達していく存在であり、発達障害の人も同様です。つまり、発達障害の人にも成長とともに改善されていく課題が多くあります。幼い頃には配慮が受けられず、困難な環境の中で成長してきた発達障害の人も、周囲からの理解と適切なサポートが得られれば、ライフステージのどの時点にあっても改善への道は見つかるでしょう。
発達障害はいくつかのタイプに分類されており、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害などが含まれます。
これらは、生まれつき脳の一部の機能に障害があるという点が共通しています。同じ人に、いくつかのタイプの発達障害があることも珍しくなく、そのため、同じ障害がある人同士でも まったく似ていないように見えることがあります。個人差がとても大きいという点が、「発達障害」の特徴といえるかもしれません。
現在の国際的診断基準の診断カテゴリーである広汎性発達障害(PDD)とほぼ同じ群を指しており、自閉症、アスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害が含まれます。症状の強さに従って、いくつかの診断名に分類されますが、本質的には同じ1つの障害単位だと考えられています(スペクトラムとは「連続体」の意味です)。典型的には、相互的な対人関係の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り(こだわり)の 3つの特徴が現れます。
自閉症スペクトラム障害の人は、最近では約 100人に1~2人存在すると報告されています。 男性は女性より数倍多く、一家族に何人か存在することもあります。
発達年齢に見合わない多動 - 衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状が、7歳までに現れます。学童期の子どもには 3~7%存在し、男性は女性より数倍多いと報告されています。男性の有病率は青年期には低くなりますが、女性の有病率は年齢を重ねても変化しないと報告されています。
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の事柄のみがとりわけ難しい状態をいいます。有病率は、確認の方法にもよりますが 2~10%と見積もられており、読みの困難については、男性が女性より数倍多いと報告されています。
1歳を過ぎた頃からサインが現れます
典型的には1歳台で、人の目を見ることが少ない、指さしをしない、ほかの子どもに関心がない、などの様子がみられます。対人関係に関連したこのような行動は、通常の子どもで、は急速に伸びるのと違って、自閉症スペクトラム障害の子どもでははっきりしません。保育所や幼稚園に入ると、一人遊びが多く集団行動が苦手など、人との関わり方が独特なことで気づかれることがあります。
言葉を話し始めた時期は遅くなくても、自分の話したいことしか口にせず、会話がつながりにくいことがしばしばあります。また、電車やアニメのキャラクターなど、自分の好きなことや興味のあることには、毎日何時間でも熱中することがあります。初めてのことや決まっていたことの変更は苦手で、なじむのにかなり時間がかかることがあります。
成長するにつれ症状は変化し、人それぞれに多様化します
思春期や青年期になると、自分と他の人との違いに気づいたり、対人関係がうまくいかないことに悩んだりし、不安症状やうつ症状を合併する場合があります。就職してから初めて、仕事が臨機応変にこなせないことや職場での対人関係などに悩み、自ら障害ではないかと疑い病院を訪れる人もいます。子どもの頃に診断を受け、周囲からの理解を受けて成長した人たちの中には、成長とともに症状が巨立たなくなる人や、能力の凸凹をうまく活用して社会で活躍する人もいます。
7歳までに、多動 - 衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状が現れ、そのタイプ別の症状の程度によって、多動-衝動性優勢型、不注意優勢型、混合型に分類されます。
小学生を例にとると、多動-衝動性の症状には、座っていても手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、じっとしていられずいつも活動する、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などがあります。
不注意の症状には、学校の勉強でうっかりミスが多い、課題や遊びなどの活動に集中し続けることができない、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが下手、整理整頓が苦手、宿題のように集中力が必要なことを避ける、忘れ物や紛失が多い、気が散りやすい、などがあります。
多動症状は、一般的には成長とともに軽くなる場合が多いですが、不注意や衝動性の症状は 半数が青年期まで、さらにその半数は成人期まで続くと報告されています。また、思春期以降になってうつ症状や不安症状を合併する人もいます。
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の事柄のみが難しい状態を指し、それぞれ学業成績や日常生活に困難が生じます。こうした能力を要求される小学校2~4年生頃に成績不振などから明らかになります。その結果として、学業に意欲を失い、 自信をなくしてしまうことがあります。
幼児期に診断された場合には、個別や小さな集団での療育を受けることによって、コミュニケーションの発達を促し、適応力を伸ばすことが期待できます。また、療育を経験することによって、新しい場面に対する不安が減り、集団活動に参加する意欲が高まります。言葉によるコミュニケーションに頼りすぎず、視覚的な手がかりを増やすなどの環境面の工夫をすれば、 子どもの不安が減り、気持ちが安定し、パニックが少なくなることが期待できます。
早期に診断することは、親が子どもをありのままに理解し、その成長を専門家のサポートとともに見守っていくことに役立ちます。自閉症を治す薬はありませんが、睡眠や行動の問題が著しい場合には、薬の服用について医師と相談してみるのもよいかもしれません。
思春期以降になって不安症状やうつ症状が現れた場合には、抗不安薬や抗うつ薬を服用すると改善することがありますが、その場合にも、症状が現れる前に過度なストレスがなかったか、生活上の変化がなかったか等、まず環境調整を試みることが大事です。
また、幼児期から成人期を通して、身近にいる親や配偶者が本人の特性を理解していることがとても重要です。それによって本人が安心するだけでなく、親から教師、上司などに対し特性を伝えることによって、本人にふさわしい学校や職場環境が整い、支援の輪が広がっていきます。
成人を対象とした対人技能訓練や認知リハビリテーションを行っている施設は少ないですが、対人関係上の問題への対処方法を身につけるには有効です。地域の発達障害者支援センターが、自閉症スペクトラム障害者を対象にしたグループ活動を行っていることがあります。
幼児期や児童期に診断された場合には、薬物疲法と行動変容、そして生活環境の調整が行われることが多いです。薬物疲法としては、脳を刺激する治療薬であるアトモキセチンや塩酸メチルフェニデートという薬がおもに用いられます。どちらも脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンやドーパミンの不足を改善する働きがあります。現在のところ、日本では成人のADHDの人が服用できる治療薬はありませんが、将来は成人への処方も認められる可能性があります。
生活環境の調整としては、勉強などに集中しないといけないときには本人の好きな遊び道具を片づけ、テレビを消すなど、集中を妨げる刺激をできるだけ周囲からなくすことが重要です。また、集中しないといけない時間は短めに、一度にこなさなければいけない量は少なめに設定し、休憩をとるタイミングをあらかじめ決めておくことも効果的です。
自閉症スペクトラム暗害と同様、親をはじめとする家族がADHDに対する知識や理解を深め、本人の特性を理解することが、本人の自尊心を低下させることを防ぎ、自分を信じ、勉強や作業、社会生活への意欲を高めることにつながります。
学習障害の子どもに対しては、教育的な支援が重要になります。読むことが困難な場合は大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読んだり、書くことが困難な場合は大きなマス目のノートを使ったり、計算が困難な場合は絵を使って視覚化するなどのそれぞれに応じた工夫が必要です。親と学校とが、子どもにある困難さを正しく理解し、決して子どもの怠慢さのせいにしないで、適切な支援の方法について情報を共有することが大事です。