双極性障害とは、うつ状態(うつ病エピソード)と躁状態(躁病エピソード)という相反する2つの極を繰り返す疾患であり、社会機能に弊害を伴う躁状態を呈する双極I型障害と、明らかに躁状態を呈しているが社会生活を維持でき入院を必要としない双極Ⅱ型障害に分けられます。うつ病エピソードは、①抑うつ気分、②興味・喜びの喪失、の中核症状と、③食欲減少/増加、④不眠または過眠、⑤焦燥・制止、⑥易疲労性、⑦罪責感、⑧集中力の減退、⑨希死念慮で構成されます。これらの9項目中、①もしくは②を必ず含む5項目が同時期に2週間以上継続した場合を大うつ病エピソードと診断します。一方、躁病エピソードは、①高揚気分、②易怒性の亢進、③自尊心の肥大、④目標指向活動の増加、⑤リスクライフ、⑥睡眠欲求の減少、⑦注意散漫、⑧多弁、⑨観念奔逸で構成されます。これら9頃目中①もしくは②を含む4項目(②のみの場合は5項目)が1週間以上(軽躁病エピソードは4日以上)継続した場合を躁病(軽躁病)エピソードと診断します。
双極性障害とうつ病の「うつ病エピソード」は、ほぼ同じであり、さらに過去の躁病(軽躁病)エピソードは、本人の自覚がないケースが多いため鑑別が難しいです。しかし、双極性障害はうつ病に比べて、若年発症(25歳以下)が多く、妄想や幻覚などの精神病症状を伴いやすく、親・兄弟が双極性障害である頻度が高いです。また、再発の回数(5回以上)や睡眠障害(寝たいのに眠れないのでなく、睡眠欲求が減少している、もしくは過眠)などにもうつ病と異なる特徴があります。
双極性障害の治療はうつ病エピソード、躁病エピソード、維持療法期ごとに使用薬剤を調整します。すべての病期において疾病・心理教育を行うことも重要です。
軽症では炭酸リチウムやバルプロ酸といった気分安定薬の単剤療法が推奨されます。しかしながら、気分安定薬は速効性が低く、効果発現までにある程度の期間を要するため、中等度以上の躁状態では、炭酸リチウムやバルプロ酸にアリピプラゾール、オランザピンなどの非定型抗精神病薬を併用、もしくはそれらを単独で用いることが推奨されています。
日本ではまだ適応外である、クエチアピンのエビデンスが最も多く、炭酸リチウムも有効であると考えられます。ラモトリギンやオランザピンとSSRIの併用も推奨されています。
双極性障害の生涯経過の特徴の一つに再発・再燃を繰り返す点があげられ、安全性を含めた適切な治療戦略を考える必要があります。ラモトリギン、炭酸リチウムといった気分安定薬単剤で維持し、単剤維持が難しければ、これら気分安定薬の併用かクエチアピンやアリピプラゾールといった非定型抗精神病薬と併用します。これまでにうつ病エピソードの再発が優性であればラモトリギン、炭酸リチウム、躁病エピソードの再発が優性であれば非定型抗精神病薬や炭酸リチウム、バルプロ酸を選択します。
個人差はありますが、うつ病エピソードは4か月~1年、躁病エピソードは2週~数か月続き、多くの症例が寛解に至り、病前水準の社会生活を送ることができます。しかしながら、高い再燃/再発率に対し、原則、長期の予防療法が必要となります。薬物療法に加え、心理教育によりアドヒアランスや生活リズムの維持、不調の兆しを自覚してもらうことが重要となります。