ハラスメント(Harassment)とはいろいろな場面での『嫌がらせ、いじめ』を言います。その種類は様々ですが、他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりし不利益を与えたり、脅威を与えることを指します。以下に一般的なハラスメントの定義をご紹介します。
米国の法学者でこの間題のパイオニアであるMacKinnonによれば、セクシャル・ハラスメントとは「拒否できない立場にある人にかけられる望まない性的圧力」であり、「最も広く定義するならば、不平等な権力関係を背景にして相手の希望に反する性的要求を押し付けることである」。
セクシャル・ハラスメントの形態は、米国の分類になぞって環境型と代償型(あるいは対価型、地位利用型)に分けられることが多いのですが、このような米国の分類が日本の実態を説明するには必ずしもふさわしくないとの見解が提出されています。金子はこれを踏まえて日本でのセクシャル・ハラスメントを①男性中心の発想で女性の立場が無視される─女性が仕事をしづらい雰囲気になっている、②性別役割を求められる─職場でも女らしさや、合理的でない性別役割を求められる、③性的な役割を求められる─性的な関心を向けられたり、性的な役割を要求される、④望まない性的な関心を示される─立場や地位を絡ませた性的関心を向けられる、に分類しました。この分類からみてもわかるように、ひとことでセクシャル・ハラスメントといってもその内実には幅があり、性暴力被害(レイプ)から女性に対するお茶汲みの強要まで、行為の類型も程度も多様です。性暴力被害ともなれば問題の是非はありませんが、その判定にあたって「相手の意に反しているかどうか」という主観の問題に重点がおかれることが多いため、わかりにくいと敬遠されることもしばしばです。また、本来であれば犯罪であるレイプに対し「セクハラ」という表現を用いることで、その重みが軽減されてしまうこともあります。
セクシャル・ハラスメントの被害者にはさまざまな心身の症状が出現することが知られており、被害者の90%が緊張感や神経過敏などの精神的ストレス症状を、63%が吐き気、頭痛、疲労感など身体症状を訴えるとの報告があります。また、行動面においては生産性や仕事への意欲減少、仕事上のトラブルが起きやすくなります。被害者の呈する症状と心的外傷後ストレス障害(PTSD)や適応障害との類似性が指摘されており、これら以外にも、解離性障害、身体化障害、不安障害などを発症した例が報告されています。
治療にあたって重要なのは、セクシャル・ハラスメントとは事件の軽重にかかわらず被害者の尊厳を著しくおとしめるものであるとの理解です。同時に、治療者は自らの主観や一般論から被害者にこころない言葉をかけないよう十分に配慮する必要があります。