森林浴(しんりんよく)は、樹木に接し精神的な癒しを求める行為。近くの公園や林を散歩する程度から登山やキャンプ、植物園見学まで幅広く森林浴に含まれます。日本では1982年に当時の林野庁などによって提唱され、長野県の赤沢自然休養林が発祥地とされます。
2004年以降、森林浴の効果を科学的に検証し、予防医療などに役立てる取組みが始まっており、林野庁・厚生労働省・各研究機関や大学・企業などが「森林セラピー研究会」を組織して研究を進めています。また、第77回日本衛生学会総会を機に森林医学研究会(代表世話役 日本芭科大学 李卿)が設立され、研究の裾野が広がっています。
森林浴の効果は科学的なものより精神的なものが大きいといわれてきました。科学的な効能としては、樹木が発散するフィトンチッドと呼ばれる物質が作用しているとされます。
近年では、脳波測定・反応速度・唾液中ストレスホルモンの濃度・心拍の変動・心理的調査などを用いたリラックス効果などの定量化が試みられており、森林浴が人間に与える影響の科学的根拠が示されるようになりました。
また2005年、都市部のいわゆる「お疲れサラリーマン」を被験者とした実験では、森林浴翌日の採血・採尿で生理的な変化を調査しました。その結果、2泊3日の滞在によってNK細胞活性が52.6%向上したことが確認され、同時に抗がんタンパク質の濃度も上昇していることが確認されました。この実験は2006年にも継続され、2泊3日の森林滞在で約56%のNK細胞活性を再現するとともに、日常生活・都市部への2泊3日の旅行で対照実験を実施しました。日常での複数の検査や都市部への旅行ではNK細胞活性に変化がみられなかったことから、森林の環境が免疫機能の向上に特異性を持つことが実証されました。さらに、30日後もNK細胞活性が一定レベルで継続していることが判明し、森林浴での健康増進が持続効果を持つことが明らかとなりました。医療行為に至るまでには臨床事例が圧倒的に不足していますが、将来はがん予防、健康増進などへの活用法が研究されています。
これらの結果は森林セラピーの実施地の選定などに利用され、2006年4月には全国で10カ所の森林が、2007年3月には第2期として14カ所の森林が「心身の改善効果をもたらすことが科学的に証明された森」として発表されました。現在、同様の調査が各地の森林で進められており、将来的には全国数十の森で健康増進のメニューが展開される見通しです。森林医学の現状は黎明期といえます。なお国内の森林セラピーは、「クナイプ療法」(ドイツバイエルン州のパート・ウェーリスホーフェン市が発祥地といわれる)などをモデルとしています。