老年期のメンタルヘルス(老年期の心身医学について) | 豊中市 千里中央駅直結の心療内科「杉浦こころのクリニック」

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老年期の心身医学について

高齢人口の増加とともに、高齢者の罹患疾患の多様化や増加が注目されるようになって数十年が経過しました。多くの高齢者は健康でありたいと願いつつも、加齢に伴うストレスに適応しているのが現状です。高齢者は、若いときと同じように活動したい、若くありたい、と素朴に思う一方、ときには若さに対抗しようとするために葛藤が生じます。心理的負担が身体へ影響して新たな身体疾患が発生することがあります。

ここでは、老年期の心理的要因が関与する身体疾患に対する心理療法的接近や向精神薬療法について述べます。

Ⅰ.老年期の心理と身体疾患

自分にとって大切なものを失う体験を喪失といいますが、自らが愛着をもち欲求を向けていた対象や、自己価値を支えてきたものが失われることが老年期にもしばしば起こりえます。自分が馴染んできた環境や、自分を裏付けてきた自己像が揺らぐ背景には、青春時代をともにしてきた仲間が次々といなくなり、孤独感を強める出来事が多くなることがあります。社会的には、定年を迎えることによって自分を支えていた価値観が変わり、生活リズムが変化を起こします。孤独を解消するための子どもとの同居が、それまでの生活習慣を変え、違和感をもつことになります。

これらの現実に対し、心理的否認が身体疾患の悪化や、身体的・心気的訴えに変化を来すことがしばしば観察されます。

Ⅱ. 老年期の心理的アプローチ

高齢者への心理療法は、不安が低く、動機づけが可能である場合には洞察療法が可能でありますが、不安が高い場合には支持療法が望ましいです。高齢者には今までの人生に裏付けられた人生哲学があり、治療者が洞察的、教育的にかかわることによってそれ自体が切り崩されることは、高齢者の著しい自己価値観の低下を招く恐れがあり、危険です。むしろ、高齢者の人生を1つの物語として尊重していく姿勢が必要です。身体的・心気的訴えに固執する患者への対応方法として、医師は診断を下す前に傾聴と身体所見の説明の両者を含めた患者との共通の理解を見出すことが重要です。

Ⅲ. 老年期の向精神薬療法の原則

高齢者では多くの症状が概して非特異的です。さまざまな疾病状態から似た症状が生じます。さまざまな症状が重複すると、薬物を処方することによってすべての症状をカバーしようと考えがちでありますが、これは危険です。塩酸プロプラノロールによる治療中に、しばしば抗うつ薬が多く投与されていますが、これは避けなければいけません。

Ⅳ. おわりに

高齢者の心身症を取り扱う際、背景の不安が表現される場合と全く表現されない場合があります。機械的に身体疾患や身体症状にのみ対応していると、症状は慢性化しやすく改善をみません。高齢者が不安を言語化するのを助けるために、高齢者の生活史に関連した話題を選んだり、家族と行った旅行や会食、また地域での活動について対話することは、閉ざされていた感情表現が具体化されることにつながります。これらの感情を共有することにより、身体のみに固着していた平板化した感情が解き放たれることになります。身体的訴えを現実の症状として理解し、病歴を聴き取る際に、心理的、社会的要因への聴取が大切です。患者がもっている信念を確認し、それを保証したうえで教育的説明を繰り返します。また、感情的ストレスと身体的症状を関連づけることが大切であり、心理的要因にはカウンセリング技法および必要であれば薬物による管理を行い、ケアは慢性疾患に対応する方法を応用するのがコツです。

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