身体表現性障害の診断作業における最も重要なポイントは除外診断であり、患者様の愁訴の原因となっている身体疾患を見逃さないことです。さらに、身体症状の目立つ患者様であっても、精神疾患として気分障害、不安障害、発達障害、認知症などが背景にあることはけっして少なくなく、これらを鑑別・除外することで初めて診療方針が決まります。
治療者は疼痛性障害患者の立場に立って、そのつらさや苦しみを共感的に受け止める必要があります。治療開始前に、病名、状態、治療方針、経過の予測などを、治療者側が把握できる範囲で説明し、治療の同意を得ることが重要です。治療は、痛みが完全になくなることではなく、ある程度の持続的な痛みに対処できるようになることへと、患者の目標を変えることから始まります。
ほかの身体表現性障害と同様に、疼痛性障害患者への薬物療法の効果は限定的です。向精神薬のなかで比較的効果が期待できる抗うつ薬に関して、患者様の疼痛性障害の病態機序の一部に神経因性疼痛などの器質的要因が介在する場合には、抗うつ作用よりも早期かつ少量で鎮痛作用が発現する傾向があります。このような患者様に対しては、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)あるいは三環系抗うつ薬の効果が期待できます。
薬物依存・せん妄・奇異反応などの有害事象には十分配慮したうえで、不安が強い患者に抗不安薬、睡眠障害がみられる患者様に睡眠導入薬の必要最小限の投与量・期間の処方を検討します。
疼痛性障害を含む慢性疼痛患者の診療担当医師に望まれることを下記にあげます。
いずれの身体表現性障害においても、症状は慢性に経過することが多いですが、とくに患者様に知的障害や物質依存が併存する場合、患者様が心因の関与を否定する場合は、難治で治療抵抗性であることが多いです。