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カウンセリング(counseling)とは、広義には一般的に相談や助言する(counsel)ことを指しますが、狭義のカウンセリングは、心理学をベースにした、心理的な問題や悩みについて援助を目的とするものを指します。
また、狭義のカウンセリング以外にも、様々な分野での相談行為(転職、法律、美容、結婚など)のコンサルテーションをカウンセリングと呼ぶことがあります。
カウンセリングは、一般的には訓練を受けて専門的な知識を得た人が、援助を必要とする人(client=クライエント)に対して、言語的および非言語的手段を用いて、行動の変容を援助するもので、カウンセリングの基盤を成す学問領域には、カウンセリング心理学(アメリカ)や臨床心理学(日本)があります。
アメリカにおいては、心理療法(心理学)、精神療法(医学)、カウンセリングは区別されていますが、日本においては明確に区別しないで、混同して用いている心理学者や専門職が多いのが実状です。
日本では欧米ほどカウンセリングの分野が発展していませんので、カウンセリングの代わりを担うために周辺領域の裾野が広がったともいえるでしょう。
カウンセリングとコーチングの手法の違いは、それほど大きくはありませんが、性質は異なるものです。
コーチングは、人材開発のための技法の一つで、クライエントの目的、目標を達成するための手法であるのに対し、カウンセリングは、心身の癒しや心的な問題を援助や治療するのが目的です。
コーチングは、安定した精神状態を±0と考えた場合、プラスの状態の時に機能するものです。
例えば、大きなストレスを抱え続けていたり、大切な人を失ったりするなどの大きなダメージがあり、感情のコントロールが困難な状態(マイナスの状態=精神面の治療や援助が必要な場合)の時には、コーチングは適していません。
カウンセリングと混同されるものにコンサルタントもあります。
一番の大きな差はコンサルタントは相談したい分野のスペシャリストでなければなりませんが、カウンセリングの場合はどんな分野でも対応できるという点です。
また、コンサルタントはそれぞれの分野のスペシャリストなので、問題点に対して具体的な情報の提示や問題解決のための方向性・作戦を提示しますが、カウンセラーが援助するのはクライエントが自分で問題を解決しようとする力そのものに対してです。
例えば、海を目の前にしている空腹の人に、魚を取ってあげるのがコンサルタントで、魚を取る方法を教えてあげるのがカウンセラーなのです。
まず、大切なものがカウンセラーとクライエントのリレーションづくりといわれるものです。
リレーションとは構えのない感情交流であり、信頼関係のことで、クライエントとカウンセラーをつなぐ絆です。
この信頼関係はすべてのプロセスにおいて、根底になる最低条件といえるでしょう。
その第一印象を決定する最初の接触(面接)のときほど、丁寧にリレーションづくりをしなくてはならないのです。
カウンセリングは、言葉と言葉以外のコミュニケーション(態度や仕草、感情、雰囲気など)を通して、不適応となっている行動を変えようとする人間関係です。
カウンセリングの理論には、実に様々なものがあり、心理療法には200を超える理論や方法が用いられています。
また、カウンセリングの定義には様々な心理学会でも微妙な表現の差があり、統一したものはありませんが、共通するのは「クライエントの立場に立って、話を徹底して聴く」ということです。
心理療法の背景となっているカウンセリング理論の基本的な柱として、「パーソナリティ理論」と「アプローチ理論」があります。
パーソナリティ理論は、クライエントを理解するための理論で、「性格形成に関する考え方は、その人の問題、症状を理解する手だてになる。同時に、病理論も必要とする。クライエントの悩みや問題がどのような理由、状況で起こってくるのかを知っておかなければならない」という理論です。
アプローチ理論は、カウンセリングの方法論で、「カウンセリングには問題や悩みを解決したり、パーソナリティの成長を手助けしたりする方法論が必要である」という理論です。
人は生きるうえで、様々な苦しみや痛みに出会います。
様々なできごとによって、心に深い傷を負ったり、喪失感から深い悲しみに陥ったりすることもあるでしょうし、きっかけの有る無しに関わらず、不安感や恐怖感、無力感などを伴った苦痛で不快な精神状態に、囚われたままとなることもあります。
不安や怒り悲しみなどを初めとする、感情的な不安定さや気分の変調は、様々な身体的症状を伴うこともあって、実生活においても停滞を招いてしまいます。
生きるうえでの、不安や苦痛、苦悩を緩和し解消するのが、心理療法の対象とするところです。
心理療法(Psychotherapy)とは、物理的、化学的手段に拠らず、教示や対話、訓練などを通して認知と行動に変容をもたらすことで、精神疾患や心因性疾患の治療や援助、心理的問題の解決、あるいは精神的健康の増進を図ろうとする理論と技法の体系のことです。
心理療法は精神療法とも呼ばれますが、どちらも英語にすればPsychotherapy(サイコセラピー)と表記され、臨床の現場でのカウンセラーはClinical Psychologist(クリニカルサイコロジスト)、心理療法に関わるカウンセラーはPsychology Counselor(サイコロジーカウンセラー)やPsychology Therapists(サイコロジーセラピスツ)と称されます。
心因性疾患や精神医学的な障害への治療を主な目的(医療目的)とする精神療法と、カウンセリングの概念を用いて行なう心理療法は異なるもので、心理療法カウンセリングの主な対象者は、発達や人間関係の問題で悩んでいる人と、医療機関で精神疾患や心因性疾患の治療を行なっている人への補助、援助です。
どちらも心の問題を抱える人に対しての、心理的な援助と治療という点では共通していますが、サイコセラピーは精神医学を専門に学んだ医師が医療行為として行うセラピー(精神療法)と、医師以外の心理療法カウンセラーやセラピストが心理学や臨床心理学をベースに治療として行うセラピー(心理療法)に区別されます。
心理療法は、「心」、「精神」に一定の変容をもたらすことを図るものです。
則ち心理療法という業務は、対象者の生命・身体・人生・生活の根幹に関わるものでもあるため、療法を行うに当たっては高い専門性は元より厳しい倫理観も要求されるものなのです。
人間は他者の人格に触れることによって、心理的に支えられて苦痛が和らぎ、教えられるところがあって適応パターンに変化を来し、悟るところがあって人生観(自分ないしは世界に対する見方)が変わることはよく知られています。精神療法はこれらの事実を前提にしたものでありますが、人格や精神疾患に対する理論とそれに基づく技法の後ろ楯によって、こうした変化が一定の法則に基づき、一定の順序で、一定の方向に向かうように構造化されているところが一般の心理的体験とは異なるところです。
まず挙げられるのが個人精神療法です。一般に力動的精神療法、行動療法的精神療法、実存的精神療法の3つに分けて説明されることが多いです。
人間の行動や思考は無意識的思考の影響を受けているという精神分析的考え方を基盤にして行われるもので、基本的には無意識の葛藤を洞察することを通じてパーソナリティの変化を目指す治療法です。
いわゆる「行動療法」のほかに、最近では認知行動療法が広く受け入れられるようになりました。間違った学習に基づいて生じたと考えられる症状とそれに対する歪んだ態度を修正したり、問題となっている症状や行動を認知の歪みとしてとらえて、その修正を図ることを目的とします。
一般に、体験を通じての自己実現を主たる目的になされるもので、実存分析、クライエント中心療法などのほか、わが国で開発された森田療法、内観療法などがそれに当たります。
しかし忘れてならないのは、これらの病態に対する特有の理論的理解とそれに基づく技法を駆使する特殊な精神療法のほかに、一般の臨床でごく普通に施行されている支持的個人精神療法のあることです。
そのほか、集団を対象とした集団精神療法があります。病棟の入院患者を対象にしたコミュニティ・ミーティングをはじめ、少人数を対象としたかなり専門的な集団療法があります。また、対象を家族とした家族療法もいろいろな形で施行されることが多くなりました。そのほか、夫婦間の問題を扱う夫婦療法もあります。
ここでは一般的な臨床で行われる支持的精神療法でどのような変化が期待できるかを述べることにします。
まずここでは、医師は患者の話に傾聴します。「傾聴」とは、一般的な道徳観や価値観、あるいは規範を捨て、さらには先入観や偏見をもたずに患者の身になってひたすらに聴き入ることでありますが、その結果、気持ちの通じ合い(疎通性)が生じます。自責、羞恥、不安、あるいは欲求不満、さらには外的な圧力に圧倒され余裕を失っていた患者は、情緒的に受け入れてもらった、頼ることができたという体験をもつことができるのです。この体験は専門家である医師を信頼し、救ってもらえるという期待へと発展します。この体験こそが情緒的支持の中核をなすもので、非常に大切なものです。すべての精神療法の基盤であるといっても差し支えないです。
そうしてでき上がった関係のなかで、治療者に言語的表現を与えられると、何が起こっているのかわからなくなっていた患者は将来への見通しを得ることができます。換言すれば、希望が芽生えるようになります。さらには、そのようななかで保証、指導、助言、暗示がなされると、弱体化していた自我に強さが戻ってくるうえに、趣味や気晴らしなどの昇華への援助がなされると自我に膨らみが出てきます。社会生活ないしは個人生活のなかで主体的に環境に働きかける意思が生まれるであろうし、そうなると、諦めていた将来にポジティブな変化を期待できるようになるでしょう。また、治療者が自分の心理的問題に積極的に立ち向かう姿は、患者の同一化の対象として有意義に働くものです。
さらには、それまで抑えていた感情を発散させたり、内面の問題を告白することによるカタルシスも重要な治療的機序となります。同時に忘れてならないのは、日ごろ自覚してはならない感情、たとえば憎しみや悲しみ、恐怖などの陰性感情を治療の場で自由に語り合えることは、感情をめぐる安全感を与えるという意味のあることです。決して見せることのなかった「悪い自分」「みっともない自分」「惨めな自分」をあらわにし、それを受け入れられたという体験が限りない安心感をもたらすのです。危険な自分、排除されるべき自分という概念が払拭されることは、個人の人格成長を図る過程では何物にも替えがたい側面をもっているのです。
これまで精神療法は、心因性疾患である神経症の治療法として編み出されるのが一般的でした。ところが昨今、神経症も精神病と同じく生物学的基盤をもっていることが明らかにされると、いきおい、精神科臨床における精神療法の意義が低下したかのような印象を与えています。しかしながら忘れてならないのは、深く生物学的基盤に根ざした病態と考えられてきた機能性精神病(統合失調症やうつ病など)もまた、その病態形成に心理的あるいは心理社会的要因が重要な役割を果たしていることが明らかになってきて、これらに対する精神療法の意義もまた重要な治療的要因と認識されるようになっていることです。ことに、統合失調症や慢性うつ病の回復過程での患者に対する社会技能訓練、家族に対する心理教育的接近はごく普通のこととなっており、その過程で、精神療法の重要さはますます重みを増しているのです。いわば、神経症も精神病もある治療法単独で治療するというより、薬物療法、社会療法、集団療法、家族療法を併用しながら、必要があれば個人精神療法を行うという治療システム論が前面に立つようになっています。心因性疾患には個人精神療法という万能的考え方はもはや通じなくなっています。
そうした状況で、支持的精神療法の占める役割はますます大きくなっているといわなければならないです。人格的にあまり問題がなく、ストレスないしは適応上の問題で見通しを失ったような状態、その一方で、混乱が強くて自我がひどく疲弊し弱体化した不安定な精神状態(精神病ないしはパーソナリティ障害など)では、必須の治療的手段といわなければならないです。
認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていきます。誤った認識・陥りがちな思考パターンの癖を、客観的でよりよい方向へと修正します。うつ、PTSD、パニック障害、解離性障害、強迫性障害など、多種多様な精神疾患で、その高い効果が報告されています。
自身で手引きを参考にしながら出来る、比較的手軽な方法から、それが困難な場合には、専門の医師に治療してもらう方法まで、認知行動療法は、広義に活用されています。ただし疾患の種類や症状の重さによっては、トラウマヘの介入・想起により強い苦痛や葛藤を伴い、場合によっては悪化することもあるため、患者の状態を判断して治療することが重要です。
認知とは、ものの考え方、とらえ方のことであり、認知の深さが想定されています。「自動思考」とは、出来事を知覚したときに、すぐに自動的に頭に浮かんでくる考えのことです。たとえば、「上司がほかの同僚に仕事を依頼した」という出来事に対して、「自分は他人から必要とされていない」といった自動思考が浮かびます。この自動思考は、表層にあり、比較的変えやすく、意識しやすく、確信してはいないとされます。一方、「条件つき信念(媒介信念、思い込み、ルール)」は、「他人から必要とされるという条件があれば、自分は価値がある」といった認知で、中層にあるとされます。「もし~ならば、~である」というif、thenルールや、「~しなければならない、~してはいけない」というshould、mustルールが知られています。さらに、深層にあるのが、「無条件の信念(中核信念)」であり、スキーマのレベルにあたります。「いついかなる条件でも、自分は価値がない、だめだ」という形で、比較的変えにくく、意識しにくく、確信しているとされます。スキーマのレベルまで取り扱うために、幼少期の過去の重要な体験から、現在まで持続する代償的な戦略について分析し、概念化を行う必要もあります。
治療の進め方としては、現在、患者に無理がないように時間をかけて、徐々に問題と向き合う方法が主に行われています。
こうしたことから認知行動療法とは、認知の歪みを客観的に正し、患者が自身で感情や考え方の安定したコントロールが出来るようにすることで、問題に囚われた精神状態から無事、脱却し、再び同じ心身状態に陥ることを防ぐ治療法といえます。
行動療法と認知療法とは切り離せないものと考えられており、今ではこの二つを合わせて「認知行動療法」と呼ばれるようになっています。「認知行動療法」という呼び名が最初に現れたのは、ドナルド・マイケンバウムの著作のタイトルです。行動療法では認知や感情も行動の一部であるという解釈があり、認知療法のアルバート・エリスやアーロン・ベックは積極的に行動療法的な技法を取り込んで発展させて行きました。そのため、次第にこの両者は統合あるいは折衷されていきました。
それまでの行動療法が対症療法的で、個人の経験や葛藤を考慮していないために再発や別の症状が出るという批判も、認知や感情を重視するようになったためほぼ解消されたといえます。
「認知療法」、「行動療法」と分けて呼ぶ場合には「(ベックの)認知療法」と言った狭義の呼称であったり、系統的脱感作のような古典的技法を指しての「行動療法」であったりします。なお海外では「行動認知療法(Behavioral and Cognitive Therapies)」と呼ばれることもあります。さらに近年は「マインドフルネス」と「アクセプタンス」を共通の治療要素とする第三世代の行動療法が展開されています。
認知行動療法のテクニックは、人それぞれが持つ認知構造やスキーマと呼ばれるものが、人生において出会ういろいろな状況に反応したり適応したりする方法を形づくるという想定の下にあります。
認知行動療法は、抗うつ薬との比較対照試験によって、うつ病では抗うつ薬と同等の治療効果が、不安障害では抗うつ薬を超える治療効果が、複数の臨床試験で証明されています。そのため、うつ病や不安障害の治療ガイドラインでは、治療の第1選択となっています。過食症、薬物依存、パーソナリティ障害、統合失調症などにも効果が知られています。精神疾患のみならず、肥満症などの生活習慣病にも適応されます。
認知行動療法の適応の有無(標準適応か拡大適応か)についてのアセスメント(初回面接)を1~2時間で行った後、適応ありの場合、1回50分程度のセッションを週1回、16回程度連続して行うのが標準的です。その後、再アセスメントを行い、回復を認めれば、ブースターセッションとして、1か月後、3か月後、6か月後に再発防止の確認を行います。また、拡大適応で合併症を伴うなどの理由で回復が不十分な場合は、回数が延長されます。
2010年度、うつ病に対して医師が行う個人認知行動療法(30分以上、16回まで)については、診療報酬上の評価が新設されました。しかし、2013年4月現在、不安障害については、公的医療保険としては未収載です。今後の適用拡大が期待されます。