A6. 食事が進まない症状は、「食べたい気持ちはあるけれども食べられない」という状態や「食べたい気持ちが起こらない、あまりない」という状態で、特に「食べたい気持ち(体やこころの欲求)があまりない」場合は、「食欲低下」「食欲減退」「食欲不振」「食思不振」などのようにいう場合もあります。
「とても疲れたので食事が進まなかった」「悲しいことがあって食事が進まなかった」というような一時的な出来事は、多くの人が経験し、あまり問題にはなりません。しかし、数日以上にわたり「食事が進まない」症状が続く場合は、何らかの病気によるものである可能性が高くなってきます。また、食事が十分にとれない状態が続くことで、体に悪影響をおよぼす可能性も出てきます。
食事が進まない症状になる原因には、さまざまなものがあります。食道や胃・腸のように直接食べたものが通る場所の病気だけでなく、肝臓やすい臓などの消化器の病気、慢性腎不全・うっ血性心不全・慢性閉塞性肺疾患(COPD)など腎臓・心臓・呼吸器の病気、脳血管障害などの脳や神経の病気、甲状腺機能低下症などのホルモンの病気、関節リウマチなどの膠原病、糖尿病、さまざまな感染症(結核や肺炎など)、悪性腫蕩(がん)など、体のあらゆる部位の病気によって、食事が進まない症状になることがあります。また、このような身体疾患(体の病気)によるものだけでなく、市販の薬や病院で処方された薬が原因で、食事が進まない症状が起こることがあります。
さらに食事が進まない症状が、こころの状態と密接に関連していることは先に述べましたが、時には体重が減ってしまうほど食事が進まない症状がみられる原因として、うつ病もまれなものではありません。
また、心理的なストレスが長く続いたり、葛藤が解決されないままでいたりすると、心身症として他の体のいろいろな症状とともに現れてくることもあります。ほかに統合失調症や、アルコール・薬物依存、認知症などの精神疾患(こころの病気)でもこのような症状がみられることがあります。摂食障害でも食事が進まない症状がみられますが、摂食障害の場合、たとえば少しでも体重が増えることに恐怖を感じて食べることができないなど、単に食欲がない状態とは異なる症状です。
【営業職Cさん(29歳、男性)の場合】
大学院修了後に研究職として入社しました。これまで、専攻内容に合った研究だったので仕事も楽しくできていました。ところが、最近の不況で研究部門の閉鎖が決まり、3カ月前に技術営業に異動になってからは、仕事がつらくてたまりません。営業部長が猛烈サラリーマンタイプで、何かと怒鳴られてしまいます。
それから、会社に出勤しなければいけないと思うと憂うつで、朝起きるのがどんどん苦痛になり、吐き気を感じることも多くなりました。とうとう会社の前まで行っても、足が動かず冷や汗が出てきて、社内に入ることができなくなってしまい、近くの病院に行くことにしたのです。
心療内科では「適応障害」と診断され、通院治療することになりました。その後、人事部とも相談し、職種に無理があるということから、品質管理部門に異動になり、苦手な営業部長とうまくやらなくてはいけないというストレスはなくなりました。つらかった症状も比較的早くなくなり、かなり楽になりました。また、通院の際には、カウンセラーから心理療法を受け、自分の考え方を少しずつ修正できるようになっています。