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A10. リストカットとは、手首(リスト)を自分で刃物など鋭利なものを使って傷つけるタイプの自傷行為です。
自傷行為は、自分に意図的に苦しみを生じさせる行為ですから、多くの人に理解できないものと受け取られることでしょう。しかし最近は、特に若い人々の間で白傷行為が相当に多く発生していることが問題になっています。
自傷する人々の半数以上から報告される理由は、「つらい感情から逃れたかったから」、「死にたかったから」の2つです。
つまり、自傷行為は、このような極端に絶望的な精神状態の中で生じるものなのです。しかし反対に、このつらさや自傷の痛みを訴えないケースもあります。それは、極端なつらさのあまり、「解離」と呼ばれる現象が生じて、自傷時の記憶や痛みが薄らいだせいだと考えられます。
そのようなつらい感情の多くは、精神的なショックをきっかけに生じています。その大多数は、対人関係のトラブルです。また、恥ずかしい、悔しいといった思いが引き金になることもあります。
自傷行為には、もっと根の深い問題がかかわっていることがあります。その第ーは、自分を大切にすることができないという特性です。自傷する人には、自分を無価値だと考えて、自分など傷ついて当然だと感じていることが少なくありません。彼らの中には、成育環境の中で大切に扱われなかったと考えられる人が含まれています。そのようなケースでは、自分を粗末に扱う行動が成育環境のせいで生じていると考えることができます。
次は、周囲の人に自分の苦しみを表現し、助けを求めることが不得手であるという特性です。実際に長期間、援助を求めなかったせいで、自傷行為が慢性化してしまったと考えられるケースはよく見受けられます。また、感情が激しく動揺しやすいという特性が認められることもしばしばあります。自傷行為の多くは、この激しい感情に押し流されて生じたものと見ることができます。
これらの特性は、パーソナリティ特性や自己同一性(自分がどんな人間であるか、どんな社会的役割を担っているかといった、自己の感覚や意識)の障害と結びついていることがあります。自傷を行う人の中には、精神科治療の導入を検討しなければならないケースがあります。それは、つらい感情や死にたい気持ち、自分を粗末に扱う特性などが精神疾患のせいで生じていると判断されるケース、そして自殺したい気持ち(自殺念慮)が強まるケースです。
このように自傷行為は、その人が一種の危機の状況にあることを示すサインだといういうことができます。それを行う人々は、さまざまなサポートを切実に必要としているのです。
【大学4年生M さん(22歳、女性)の場合】
私はもともと気分の浮き沈みが激しく、ひどく落ち込むこともしばしばです。ほかの人とも仲良くしているときはいいのですが、ちょっとした行き違いからうまくいかなくなることがよくありました。
今はつきあっている彼がいます。2カ月前に、同じクラスのある女性と楽しそうに話しているのを見ました。それがすごいショックでした。このとき、私はもう彼に見捨てられたと思い、死にたくなりました。その夜に私はリストカットをしてしまいました。彼がそれを見つけて救急車を呼んでくれ、一緒につきそってくれました。その後しばらくして彼が別の女性と話していたので、またリストカットしてしまいました。彼が優しいと安心するのですが、不機嫌な顔をされると、私のことを嫌いになったように感じてしまいます。そうなると、怒りがこみあげてきて、リストカットしたくなります。私は本当にひどい人間です。いつか彼に見捨てられるのではないかと考えると、気持ちが真っ暗になります。
彼は私が考えすぎだ、一度専門家に相談したほうがいいのではないかと、病院につきそってくれました。そこでは、パーソナリティ障害だと診断されました。治療ではお薬を飲んだり、感情のコントロールをする練習をやったりしています。