2018年09月25日
千里中央(大阪府 豊中市・千里ニュータウン)、心療内科 精神科「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「復職支援(リワーク)」の110回目です。引き続き、復職支援(リワーク)について詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖リワーク(Re-Work)とは?〗(ⅩⅩ)
◎リワークプログラム(復職支援プログラム)❽
■メンタルヘルス専門医療機関での戦略的リワークプログラム(戦略的復職支援プログラム)
③「育て鍛える」職場復帰支援(リワーク支援)
⇒すでに述べた(2018年9月16日掲載)ように、「1983(昭和58)年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約(第159号)」では、障害者を、「身体的又はメンタルヘルス的障害のため適当な職に就き、これを継続し及びその職業において向上する見通しが相当に減少している者」と定義しています。この定義も示しているように、メンタルヘルス疾患と就業可能性との関係は、メンタルヘルス疾患が“原因”で就業可能性が“結果”と捉えられやすいです。メンタルヘルス疾患が悪化したために、就業が困難になるという認識です。しかし、メンタルヘルス疾患と就業可能性との関係はそれだけではないです。過酷な職場環境の結果としてメンタルヘルス疾患が発症することがあります。ハラスメント事例などがこれに当たります。また、企業が求める役割期待に労働者が能力的に応えることが難しく、その結果メンタルヘルス疾患をきたすこともあります。潜在的に役割期待と労働者の能力との間にミスマッチがあり、それがメンタルヘルス疾患という形で顕在化した場合です。改めていうまでもなく、職場復帰や就業継続(リワークや就業継続)のための復職支援方法(リワーク方法)はそれぞれの場合によって異なります。メンタルヘルス疾患が原因の場合は、メンタルヘルス疾患の医学的治療や職業リハビリテーションが重要な役割を果たします。ハラスメント事例の場合は、職場環境改善が欠かせないです。ミスマッチの場合は、労働者の働く能力を「育て鍛えて」、役割期待に見合ったものにすることを目指したり、自らの働く能力について労働者の自覚を促しキャリアを検討したりすることが必要になります。
医療機関におけるリワークプログラム(医療機関における復職支援プログラム)や地域障害者職業センターにおけるリワーク支援(地域障害者職業センターにおける職場復帰支援)、さらにEAP事業者におけるリワークプログラム(EAP事業者における復職支援プログラム)でも「育て鍛える」復職支援に相当する取り組み(リワークに相当する取り組み)自体は行われていると認識しており、戦略的リワークプログラムでも事例ごとに様々な取り組み(戦略的復職支援プログラムでも事例ごとに様々な取り組み)や「育て鍛える」復職支援(「育て鍛える」リワーク)を行っています。それでも「育て鍛える」という視点を改めて言葉として掲げたのは戦略的リワークプログラムの特徴(戦略的復職支援プログラムの特徴)であると考えているからです。戦略的リワークプログラムでは、この「育て鍛える」という視点(戦略的復職支援プログラムでは、この「育て鍛える」という視点)から、メンタルヘルス不調による休職から、その労働者がその企業において働き続けるために克服すべき「成長課題」を見出せるように努力します。そして、その成長課題の克服をメンタルヘルス不調の再発予防策として捉えて、復職支援を行い(再発予防策として捉えて、リワークを行い)ます。
④戦略的リワークプログラムの課題(戦略的復職支援プログラムの課題)ー「中間地帯 no man’s land」という文脈ー
⇒ここまで、復職支援は行うべきもの(リワークは行うべきもの)という文脈で述べてきました。しかし、復職支援を実践(リワークを実践)するにはそのほかにも考えるべきことがあります。それは、産業精神保健の現場は、中間地帯 no man’s land だということです。中間地帯とは無人地帯ともよばれ、係争中の領地でどの勢力からも占有されていない土地のことを指します。その土地を挟んで対抗勢力が対峙します。そこに不用意に踏み込もうものなら、たちまち相手から狙い撃ちされてしまいます。そのため、双方それ以上前に進むことのできない地帯を指すのです。
産業精神保健には、組織、経営、医療、心理、福祉など様々な視点が含まれます。したがって、その責任を一手に引き受けることは誰もできないです。その意味で、産業精神保健の現場には、中間地帯という文脈が存在するのです。その結果、ともすれば誰も当事者意識をもたない状況が生じます。職場管理監督者や人事担当者にしてみれば、メンタルヘルス障害をもつ労働者を再び働けるようにしたとしても、特別彼らが評価されることはないです。それどころか、メンタルヘルス障害をもつ労働者に下手にかかわって、その労働者が再びメンタルヘルスを崩したり最悪自殺したりしようものなら、彼らのその後のキャリアには傷がつきかねないです。産業医や主治医(精神科医・心療内科医)にしても、下手にかかわると本来労使で解決すべき問題を医学の問題にすり替えられ、企業に都合よく利用されるおそれがあります。それでは、誰もかかわりたくなくなるのが当然です。
中間地帯という文脈をもたず、リワークプログラムは積極的に行うべき(復職支援プログラムは積極的に行うべき)という「べき論」だけで、リワークプログラムの実践(復職支援プログラムの実践)に取り組んだならば、リワークプログラムの取り組み(復職支援プログラムの取り組み)は現場の実状から乖離したものとなり、失敗に終わることは火をみるよりも明らかです。したがって、戦略的リワークプログラム成功の鍵(戦略的復職支援プログラム成功の鍵)は、復職支援の関係者(リワークの関係者)にいかに負担をかけ過ぎない形で復職支援を実施(リワークを実施)できるかにかかっています。
ここまでリワークプログラムの理論(復職支援プログラムの理論)を、リワークプログラムの歴史(復職支援プログラムの歴史)を辿りながら明らかにしました。某メンタルヘルス専門医療機関内にある復職支援施設(リワーク施設)が、リワークプログラムの理論に「育て鍛える」視点を加えて開発(復職支援プログラムの理論に「育て鍛える」視点を加えて開発)した、戦略的リワークプログラムについて(戦略的復職支援プログラムについて)述べました。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。